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1.自由と繁栄の環 

麻生外相が提唱している「自由と繁栄の弧」戦略。いままでの外務省になかった国家戦略の宣言。この「自由と繁栄の弧」戦略だけど、時間を少しさかのぼると面白い構図がみえる。

自由主義・資本主義的な考えがヨーロッパで国家体制として確立しだしたのは、200年くらい昔から。それがアメリカ大陸に渡り、二度の世界大戦を経て、日本の自由民主国家化と東南アジア諸国の植民地解放。東西冷戦を経て、ソ連崩壊、東欧諸国独立とロシアの自由主義諸国への参加。

自由と繁栄の考えを国家体制としている諸国は、いまやヨーロッパ・ロシア・アメリカ・日本・東南アジア諸国およびオーストラリアと繋がる半円を形成している。

日本が、東南アジア-インド-中央アジア・バルト諸国にむけて、「自由と繁栄の弧」戦略を完成させると、中央アジア・バルト諸国とヨーロッパが繋がる。自由と繁栄の弧じゃなくて環になる。

自由と繁栄の環の内側には、中国があって、ちょうど中国を自由主義の包囲網で囲む形になる。日本の「自由と繁栄の弧」戦略は、中国の政治体制維持にとって死活問題となりかねない。

中国の周囲が完全に自由主義国に囲まれると、自由主義国に面した部分から影響を受けて、じわじわと自由主義体制に移行してゆく。ひいては独立の動きにつながる。

だから中国は周辺諸国への干渉を強めることで、包囲網を破り、中東への経済援助と武器輸出で資源獲得を狙うと共に、包囲網の完成を阻もうとしてるように見える。

だから、「自由と繁栄の弧」戦略はすごく緊張を生むはず。中国政府は日本の金と技術が欲しいから表立ってはいわないかもしれないけれど、軍部がいつまでも黙っているとは思えない。

中国の包囲網突破戦略に対する備えも同時に検討しておく必要があるだろう。


2.核兵器は時間をも破壊する

中国は核ミサイルを持っていて、日本に照準を合わせてるのは周知の事実。

日本も北朝鮮の核開発問題を契機として、国防意識が高まってきたのは良いのだけれど、日本人の核アレルギーは相当なもの。核武装はおろか、核武装の論議でさえ大きな声ではいえないのが現実。

核兵器が非常に問題となっているのは、核による被害が甚大なことは勿論だけれど、被害の質が通常兵器とは異なる側面もあるから。放射能汚染の問題がそれ。

通常弾頭は、爆撃範囲を破壊しておわるけれど、核兵器は爆撃範囲を破壊したあとで更に、周囲を放射能汚染する。

核兵器は、爆裂による破壊範囲を「空間的に破壊」し、また放射能汚染とそれが消えるまでの期間、その一帯と放射能を浴びた人を苦しめつづける、いわゆる「時間的に破壊」する両面を持つ。

広島・長崎での原爆、その惨事があまりのことに人々の心に深い傷を与えたのは勿論、その後の後遺症や汚染浄化までの二、三世代の時間に渡って、絶えず広島・長崎の時間を破壊し続けてる。

だから、人々の心から消えない。被爆者の姿と後遺症。それが原爆投下を思い起こさせつづけてる。後遺症が完全に消え、かつ原爆被害を語り継ぐことが途絶えない限り、見えない原爆投下は絶え間なく日本人の意識の中で続いてる。

通常兵器と違って、核は何世代にも渡るほどの時間破壊効果がある。この面で通常兵器とは比較にならない。


3.命の値段によって抑止効果は変わる 

核抑止力というけれど、とどのつまり核を打ったら報復核攻撃をうける、その被害が半端じゃないから止めておこう、というもの。核攻撃によって得られる利益が不利益を上回らないと、攻撃しても割りにあわないからしないだけ。

だから、一概に核抑止力といっても相手が不利益と考える基準を考慮しないといけない。

兵器の抑止力効果が、被害とイコールまたは比例するものだと仮定すると、下記の式のような関係になると思う。

(物理被害÷国富)×(人命損失数×戦意喪失係数)     ×(時間破壊効果×戦意喪失係数) => 抑止力効果

重要なのは国ごとに戦意喪失係数が違うこと。人権に対する意識が高い国ほど、人命の損失や時間爆撃効果による戦意喪失係数は高くなる。

民主国家と独裁国家を比較した場合、戦意喪失係数は天と地ほども違ってくる。命の値段が違う。

独裁国家や人権意識の低い国のように命の値段が安い国は、戦意喪失係数が低いから、民間人の人命損失や時間爆撃効果による戦意喪失はあまり期待できない。

戦争しても、補給路の遮断による相手国の継戦能力の剥奪や、相手国の軍隊の壊滅によってしか終わらせられない。

国民が戦意を喪失したところで政府は倒れない。中国についていえば、国土が広いから物理被害も限定的。

時間破壊効果はどうかといえば、これもあまり期待できない。ある意味において、中国は既に時間破壊攻撃を受けている。自分自身の環境破壊がそれ。

水や土壌の汚染や空気の汚染、深刻な被害が出ている。特定国による攻撃じゃなくて、自分で自分に攻撃しているのだけれど、自国民に何世代にわたる健康被害という意味での時間破壊をしてる。

中国の人権意識の低さはとうに指摘されてることだけど、環境被害に遭っている自国民に対する対応をみる限り、時間破壊効果が小さいであろうことは否めない。だから、たとえ日本が核武装に踏み切ったとしても、周辺諸国はともかく、中国相手には、刺激こそすれ抑止力効果はあまり期待できない。



4.無人兵器は戦争のハードルを下げる

命の値段が高い国は、少しの人的被害でも直ぐに戦意喪失する。まず国民から。

人権意識が極度に高くなってしまったアメリカの戦意喪失臨界点は驚くほど低い。だから、なるべく戦闘による死亡者をださないような戦争のやり方を取らざるを得ない。制空権を確保してひたすら爆撃するなどしか方法がない。

だけど、占領となるとどうしても陸軍が必要になる。自国民を死なせたくなければ、他国民を尖兵として使うことになる。表向きは人権人権っていっているけれど、現実は命に値段がつけられている。当然他国民より自国民の値段は高くなる。どこの国でもそう。

命の値段は戦意喪失係数と多分比例関係にある。だから命の値段が高い国に対しては、その国の国民の生命が脅かされるという懸念だけで、ものすごく抑止効果がある。

だからそういう国では、自国民をなるべく死なせない兵器と運用を考えるようになる。

ひとつは先制攻撃による相手の反撃の封殺。もうひとつはミサイルを中心とする無人兵器の開発。

大量破壊兵器は最初の一撃でほとんど相手の反撃力を奪ってしまうから、撃たれたらおしまいになる。MDが本当に有効であればいいけれど、そうでなければ撃たれる前に破壊するしかなくなる。一発だけなら誤射かもなんていってる場合じゃない。

また、無人ロボット兵器なんかが使えるレベルまで開発されて、実戦配備されるのはとても危険。戦争のためのハードルが低くなる。戦場が自国と遠く離れて、自国への被害が軽微だと思われる状況で、無人兵器を持つと安心して戦争に踏み出せてしまう。

無人兵器の最たるものはミサイル。ミサイルを持つということは、抑止力であるとともに、戦争のハードルを低くしてる面がある。

ただし、核ミサイルに関していえば、時間破壊効果を考えると、核は使った方も使われた方も後々のリスクが大きい。使った方は世界中から非難されるし、使われた方は怨念が残る。核の汚染は後の時間を破壊しつづけるから、いつまで経っても非難と怨念が消えない。

だから、無人兵器もそうだけど、時間破壊効果が少ない大量破壊兵器の開発を考えるのは、ある意味自然な流れ。燃料気化爆弾とか、現実にあるかどうか不明だけれど、純粋水爆とか。

繰り返しになるけれど、これらの兵器は戦争へのハードルを低くしてしまう。自国が安全で、自国の兵士が死なず、他国を攻撃しても時間破壊効果があまりない大量破壊兵器、たとえば、純粋水爆を弾頭に持った大陸間弾道ミサイル。こんなのが最も危険な存在になる。



5.人権抑止力戦略

戦争をするためには、大義名分と自国民の支持が必要。特に民主国家ではそう。自国民を納得させられないと、兵役についてくれない。無理やり徴兵しても士気は上がらない。

今の戦争は、戦争開始までの前準備が大変。大義名分が国際的に理解されたと思わせないといけないし、自国民を納得させないといけないし、ソロバンも弾かないといけない。

結果として、とても戦争しにくくなった。昔と比べてマシになったといえばマシ。

なぜかというと、人権が世界的に認知されて、命の値段が上がって、戦意喪失係数も上がったから。人権意識の係数で抑止効果が上がった。

今は核ミサイルを持ち合って、抑止力としているけれど、国ごとの、人権による戦意喪失係数の上昇がどれくらいあがるかで全然違った構図になる。

中国に対して抑止力効果をさらに発揮しようとしたら、命の値段か物理被害か時間破壊効果のどれかの係数をあげなくちゃいけないのだけれど、平時では、物理被害はないし、環境破壊による時間破壊効果をみても、彼らはそんなのへいちゃらだから、時間破壊効果の係数も上げられない。残るは命の値段だけ。

だから中国人の命の値段を上げるような戦略を練らなくちゃいけない。  

ひとつの方法として、中国に進出している日本企業が社内教育と称して、中国人に徹底的に人権教育を施す手がある。現実に今、中国は自国製品と食品で品質問題を起こしているけれど、要は人権を軽視する考えが根本にあるから、いい加減なものを作っているだけのこと。自分の命は大切にするけれど、他人の命なんて知ったこっちゃないというのが問題の出発点。

今や日本から中国に数多くの企業が進出してる。建前上、品質向上や安全性確保のための教育は咎めにくい。そこに人権教育を混ぜればいい。

中国政府にいちゃもんつけられたら、即刻撤退をチラつかせる。人権侵害する国で安全管理はできないといえばいい。中国は人権を十分に尊重している国ではなかったかと反論しておく。現実に撤退するなんてことは、ほとんど不可能だったとしても。

中国人の人権意識を高めることで、戦意喪失係数を上げてやる。

今の中国の現状を見る限り、人権意識が高まれば内乱要因になって、エネルギーをそっちに割かなくちゃいけなくなる。中国政府が国民の不満を逸らそうと反日に走っても、もはや日本の反発を生むだけ。金も技術もこなくなる。

人権意識を抑止力に使う戦略。憲法改正もままならない日本が現時点でとれる戦略はこれくらいしかない。

それでも十分に中国を刺激するから、日中間の緊張が更に高まるリスクは覚悟しなくちゃいけない。



6.自由と繁栄の底にあるのは軍事プレゼンス

国の発展段階は六道輪廻と相関している。自由と繁栄を国民が享受するためには、最低限の生活保障がされている状態、六道思想で言うところの、修羅道・人間道・天道のどれかの段階にいなくちゃいけない。

その前段階である地獄道・餓鬼道・畜生道は、国として、治安維持、ライフラインの確保、各種インフラ整備がされてようやく通過できるもの。簡単な話じゃない。「自由と繁栄の弧」戦略の対象となる東南アジア、インド、中央アジア・バルト諸国も六道のどれかにあって、それぞれの段階を通過しようとしている。

たとえ国が修羅道まで通過して天国領域にいたとしても、それは軍事的圧力や侵略によって簡単に地獄道まで戻ってしまう脆いもの。そこを戻させない力として、抑止力がある。そうさせない軍事プレゼンスが必要となる。

東南アジア諸国からみたら、あきらかに中国を包囲することになる「自由と繁栄の弧」戦略は、日本と中国の間での東アジアにおける覇権争いにみえる。

アメリカの世界覇権力が衰退してきている今、日本が「自由と繁栄の弧」戦略を本当に進めるのであれば、軍事プレゼンスを避けては通れない。イザというとき助けてくれないのであれば、日本の戦略なんて空手形。どの国も乗ってくるわけがない。戦略の前提が破綻する。

だから、「自由と繁栄の弧」の裏打ちとなる他国のために血を流す覚悟があるのかどうか問われるようになる。本来の意味での集団安保ってそういうもの。

でも、そのあたりの議論はあまり聞こえてこない。戦後教育における、戦前日本の完全否定と、日本人の深層意識内にある、他国に軍を出せば今度こそ滅ぼされるという恐れが、議論そのものを邪魔してる。

自由と繁栄の底には、地獄道・餓鬼道・畜生道があって、軍事プレゼンスと経済インフラによって支えられている事実と向き合うこと。東京裁判史観と向き合って、深層心理の呪縛から自らを解放すること。日本から世界にでるという覚悟を決めること。

これから突きつけられる課題。厳しい問いかけがなされる。 (了)


カテゴリー 日記
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